犬はそもそも卑しいものとして扱われている。特に、唾液は不浄とされている。
遊牧民のテントに行くと、だいたい犬を飼ってはいるが、それは門番や狩りに使ったり、羊を追うためであり、決してペットとしてではない。ラクダ、羊という動物が「財産」として扱われているのに対し、犬はランクの低い動物として見られているのだ。
ある大手総合商社に勤めるIさんは、トラッドな英国スタイルのファッションが好きだ。
ある日、わかっていながらもついうっかりと小さな犬がドット柄のように散っているネクタイを締めて、アラブ人の顧客の事務所に行ってしまったそうだ。
「いやぁ、うかつでした。みるみる相手の表情が硬くなり、とても不機嫌になったのです。
その視線の先にはこのネクタイ…。最初は何が原因かすぐにはピンとこなかったのですが…。おかげで商談はまとまらず、すぐに帰ってきました」
泣きそうになっているIさんを笑えない。ついうっかり…、のミスが命取りになることもあるのだ。
とにかく、自宅で飼っているペットの犬の写真など、アラブ人には見せびらかしたりしない方が、無難である。
「アラブ人の心をつかむ交渉術」 河出書房新社より