はじめて出会ったアラビアの文化

はじめてアラビアのイスラーム文化に触れ、そのとりこになったのは、18才の時だ。日本円がまだ弱く、海外に出かける日本人もそう多くはない時代、1人でパリに行ったときのことだった。約10日間あちこちを自由に出歩いたのち、ガイドブックで調べ興味を持ったアラブ人街の蚤市で、大きな衝撃を受けたのだ。アラブの商人たちが大事そうに並べた品々は、他の地域では見られない、エキゾチックで繊細な美しさを放っていた。まるで千夜一夜物語にでも出てきそうなランプ、細かい柄が入り組んだ多色使いの絨毯、何とも言えない曲線美の水差しやコーヒーポット・・・、それらすべてが私に何かを訴えかけてきた。この瞬間、私は恋に落ちたのだ。

 その後、夫の仕事の関係でサウジアラビアに3年半住む機会があり、そこで見聞きしたことを絵と文章で5冊の本にまとめた。雑誌や新聞でも記事を書いているが、人々の反応から常に感じているのは、中東地域に対する誤解とステレオタイプの思い込みだ。テロや戦争が絶えない危険な地域だと考えられがちだが、それは一部のことであり、地域全体ではない。また、歴史についても再認識されるべきだろう。

 ヨーロッパが後世になって暗黒時代と呼ばれた中世、中東から北アフリカ、現在のスペインに至るまでの広大な地域ではイスラーム文化が花開いた。特にアッバース朝時代、ローマ・ギリシャの膨大な文献が訳され、医学、化学、哲学、航海術など幅広い分野で現代学問の基礎が発達したのである。しかしながらその後、それらの書籍が西欧諸国で再び翻訳され、印刷技術の普及などにより急速にイスラーム文化を継承した西欧が、今度は世界の表舞台を席巻することとなる。つまりイスラーム文化は、現代学問や技術の礎を作ってくれたと言っても過言ではないのだ。

 イスラーム文化の素晴らしさ、美しさを伝え、正しく理解してもらう手助けを、微力ながら今後も私は続けていきたい。