お祈りはエクササイズ

この国に来ると、まず初日、誰でも三つのことに驚く。
近代的で美しい空港や町に驚く。
全員が同じ民族衣装をまとっていることに驚く。
そして、極めつけ、突然始まるサラート(礼拝)に驚く。

妙なお経のような歌(?)があちこちのモスクから聞こえたかと思うと、空港の中でも、電車の中でも、高速道路の道端でも、あたり構わず絨毯を広げ、おでこを地にすりつけ、アラーに祈る。
目の前でいきなり、これやられたら、びっくり仰天。
何度見ても、この国中で行われる突然の一斉のエクササイズに慣れることがない。

おまけにこのお祈り、一日5回。早朝四時頃、いくつものモスクのスピーカーからこの歌がガンガン流れて不協和音をかなでる。慣れないうちは驚いて目がさめてしまう。
また買い物をしようにも、お祈りごとに3、40分店が閉店するので、常に新聞に出ている「本日のお祈りタイム表」をチェックしなくてはいけない。
日の出、日の入りの時刻によって毎日少しずつ時間がずれるからだ。

しかし、古くから部族間に伝わる単調な音楽しかない国ではこの「お祈り呼びかけ歌」、なかなか人気があって、ムアッズィン(歌い手)によってはまるでアイドル歌手の音楽テープのように売られている。
声に恋する乙女もいるとか。

また、モスクでお祈りする前には、脇にある水道で一列になって「顔、手足を洗う」。
日本の神社でも教会の礼拝堂でも、祈る前に「罪を水で流してお清めをする」のはとても面白い共通点だ。

モスクへ異教徒は入れない。しかし、トルコやモルジブなどでは、観光客用に公開されているところもある。必ず、ハダシになって大理石の上をペタペタ歩いて入る。
ガランとした中には、信者からの寄付の絨毯が幾重にも敷いてあって、この上でひたすらメッカの方角に向かってお祈りする。

モスリムの必需品、お祈り用絨毯とメッカ磁石(世界中どこにいてもメッカの方角を探し当てられる磁石)、これをお土産にほしいと思ったのは私だけだろうか。

 

「ハルム・アラビアの夢」 大和出版より